美容鍼灸 中野真由美先生コラムNo4 秋の健やかな過ごし方
暑い夏も終わり季節は秋へと変わりつつあります。8月の下旬頃から夏の疲れが溜まり、体のだるさ、食欲不振等の夏バテに陥っておられる方も多いかと思います。徐々に朝夕も涼しくなってきますので、暑さに疲れた体を癒して、秋を健やかに過ごしていただきたいものです。
湿度の高かった夏とは反対に、秋は乾燥する季節です。体の表面から「陽気」だけでなく「水気」も逃げていきます。東洋医学では秋はおとなしく過ごすことが、自然と調和する方法だと言われています。春に芽吹き、夏に外に発散していた陽気は、秋には身体の中に向かおうとします。秋冬を健康に過ごすためには、身体の毛皮(皮膚の毛穴)を閉じる前にもう一度、窓を開け放つように残った陽気を出しきり、涼しく清潔な気を体内に入れる…つまり「気」の入れ替えをすることが必要です。
この気の入れ替えに一番大切で影響を受けやすいのは肺です。今回は秋の健やかな過ごし方として、肺を中心にお話をさせていただきます。
秋を健やかに過ごすキーワード「喜潤悪乾」
- 秋三月 此謂容平 天氣以急
- 地氣以明 早臥早起
- 與雞俱興 使志安寧,
- 以緩秋刑 收斂神氣 使秋氣平
- 無外其志 使肺氣清 此秋氣之應
- 養収之道也 逆之則傷肺
- 冬爲飧泄 奉蔵者少
上記は黄帝内径に記されています秋の過ごし方です。訳すれば…
- 秋の三ヶ月間を「容平」と言います。
- 天は動いていますが、地は穏やかです。
- 鶏のように早寝早起をして、
- 心穏やかに神気を取り入れ、緩く過ごせば肺の気を清らかにします。
- これが秋の気を感じる、養収の道です。
- この気に逆らえば、肺を損傷し、冬には下痢をして気が少なくなります。
秋は容平…とありますが、「容平」には、収めるという意味と、成長が止まり調整するという意味があります。自然界では万物が実を結ぶ時であり、夏に咲いた花も秋には実を結び、生命力を実や種の中に収めます。人間にも同じ働きがあります。「気」の流れの勢いが外向きから内向きに変化していきます。夏には熱の発散体制だった身体は、秋には冬へ向かって引き締めを図り、熱が漏れない体作りが始まります。
五行学説では、秋は五蔵の「肺」に対応します。肺は呼吸を司っています。食べ物が胃腸の働きで分解されるように、肺は呼吸を通じて得た「天の気」を体内に取り入れ、食物から得た「地の陰気」と合わせ「後天の気」に変化させ、全身に送り出します。これにより全ての臓器、器官、組織の生理活動が営まれます。
少し難しくなりますが、中医学では肺の機能として、宣発(せんぱつ)と肅降(しゅくこう)が記されています。宣発とは・上昇して広く行き渡らせる意味で、脾(胃腸)からの水分と栄養物質を全身に散布し、汗をかいて水濁を発散させることです。肅降とは・吸収した清気と脾からの水分と栄養分を下に降ろし、肺と呼吸器にある異物を取り除き清潔に保つことです。
肺に対応する色は「白」となっています。自然界に例えれば白い「雲」の役割です。空気や水分の循環とフィルター等のバリア機能を担っています。また肺は大腸と対応していて、呼吸や水分代謝・免疫機能に大きく影響しています。
五味では「辛味」に対応します。実りの秋は旬の食材も豊富ですので、辛味の食材を美味しくいただき食生活で身体に潤いを与え、乾燥から守りましょう。
秋にお勧めの辛味の食品に関しては後ほど、詳しく述べるようにします。
秋の養生は「潤い」がポイント
肺の役割は呼吸機能だけでなく、水分代謝や体温を調節して外邪を寄せつけない免疫機能にも及びます。健康な肺は血液や体液で潤っていますが、夏バテで栄養が充分に摂れていなかったり、ストレスが溜まると肺が乾燥して免疫機能も低下します。
さらには夏に開いていた表皮が閉じて皮膚呼吸等が減少するため、気管、鼻等の負担が増えます。大気の乾燥による熱や水分の発散が、気管支や鼻粘膜を傷つけて、身体の防衛力が下がります。風邪をひきやすくなるので、薄着をして身体の熱を逃がし過ぎるのは避けてください。また秋の夜長ではありますが、なるべく早寝早起きを心がけてほしいです。一方で長く眠っていると肺気が虚すと言われています。肺が弱っている人にとって、体を休ませ過ぎることは気の巡りを悪くすることに繋がります。その辺りの加減を調整して質の良い睡眠をとっていただきたいです。
肺の不調のサインと乾燥肌
肺の乾燥が始まることを「燥邪」と言います。身体が渇き、水が不足すると様々な症状が出始めます。東洋医学の肺には息の通りである「鼻」も含まれています。鼻水が出やすくなると肺の不調のサインです。鼻水に続き、アレルギー喘息、咳、気管支炎、呼吸障害、息切れ等、呼吸器関連の症状が起こりやすくなります。
皮膚は肺により衛気や水分の散布を受けますので、肺の機能を反映しています。肺が弱ると乾燥肌のような肌荒れになりやすく、さらには発疹、アトピー、ジンマシンも出たりします。また肺の不調は肌だけでなく髪や口等の乾燥ももたらします。その結果、乾いた咳が出ることにも繋がります。※衛気(えき)とは体温調節や外邪の除去を助け、臓腑を温め、体温を維持する気です。一方で秋の長雨は「湿邪」としてだるさや傷や関節の痛みを引き起こしやすくなります。
肺の不調の乾燥肌について述べましたが、ここで少し秋のメイクのアドバイスをしておきます。乾燥の季節には粉っぽいメイクは避けましょう。ちなみに私は乾燥シワを避ける為、クッションファンデーションを愛用しています。
クッションファンデーションを用いるとお粉をつける必要はありません。チークも練りタイプやリキッド、グロスタイプを使用しています。乾燥肌の方は参考にしていただければ幸いです。
肺は「憂い」に弱い
秋の気は「憂」です。悲しみは肺を犯します。憂いが肺の力を失調させ、気の運行不順を起こし、ますます肺の気の消耗に陥り抵抗力が落ちると考えられています。ですからあまり悲観的に物事を考えず、気楽に過ごすように努めてください。涼から寒への気温の低下が精神にも影響を及ぼし、憂いや悲しみを覚えやすくなります。ある程度は季節の影響と受け止め、ゆったりと構えて微笑んで過ごしましょう。
肺は悲しみの臓器とも言われ、肺にトラブルがあると、悲しい出来事ばかりを拾い上げる傾向があるようです。昔は多くの文豪が肺結核を患いましたが、それは悲しみに敏感な作家特有の性質が影響しているのかもしれません。有名なオペラの「椿姫」は、結核を患う非劇のヒロインですが、彼女は青白く、気管が悪く、最後は肺の病で亡くなります。まさに肺にトラブルが出やすい性質を象徴する人物像です。
肺にトラブルが出やすい人は椿姫の例にもありましたように、透きとおるような色白で、体の線が細く、むくみやすい体質の方に多く、アレルギーなどを発症しやすいです。また手首の親指側が彫刻刀で削られたかのようにくぼんでいる傾向があります。
「喜潤悪乾」の肺に良い食材
先に述べましたように肺は五味では「辛」で辛味が対応しています。辛い食べ物には気や血の流れを促進して、発汗、発散の作用があります。代表的な食品はネギ、ニンニク、生姜、唐辛子、ワサビ、ニラ等の辛味のあるものが挙げられます。ですが、辛味を多く摂り過ぎると、肺に対応している五腑の「大腸」に負担がかかり、逆に大腸が乾燥してしまうので、適量を心がけてください。
胡麻、餅米、うるち米(日本人の主食です)、蜂蜜、枇杷、乳製品等の柔らかいものも適度に食べると良いです。胃を益し、唾液の分泌を促し、体を潤してくれます。
果物は水分が豊富で潤す働きがあるように思いがちですが、冷す作用が強いので食べ過ぎは禁物です。また旬の食材はハウスものよりミネラルが豊富ですので、さつま芋、里芋、じゃが芋、山芋、蓮根、キノコ類、カリフラワー等の秋野菜を積極的に摂りましょう。
では秋に良い潤いをもたらす旬の「白」の食品について述べます。
大根:秋の終わりから冬が旬です。消化酵素のアミラーゼを多く含み、ビタミンCも豊富です。加熱すると甘くなる性質があり、消化不良を助けます。咳や痰を鎮める作用もあります。二日酔いや風邪にも効果的な食材です。ただ体質的に下痢気味の方は量を控えられたほうが良いです。
蓮根:食物繊維やビタミンCを多く含みます。ネバネバ成分のムチンが含まれているため、粘膜に潤いを与え、喉を潤し渇きを抑える作用があります。鼻血の止まらない人が、蓮根のしぼり汁を含ませたティッシュを鼻孔に入れて止血する民間療法も有名です。
山芋: 長芋、自然薯等の種類がありますが、どちらも主成分はデンプンでネバネバの成分はムチンです。滋養強壮の作用があり、肺機能を高め、胃腸を丈夫にします。冬に向けて積極的に摂りたい食材です。
白葱: 寒くなる季節の鍋には欠かせない食材です。特有のにおいはアリシンで、抗酸化、抗菌、解毒作用があります。風邪予防にもお勧めできます。
梨: ほとんどが水分の果物ですが、リンゴ酸、クエン酸、アスパラギン酸が含まれており、新陳代謝を高め、疲労回復には効果的です。中国の古書では「梨は大小便を利し、熱を去り、渇きを止め、痰を開き、酒毒を解す」とあり、「百果の宗」と呼ばれていました。
喉の痛みや渇きをやわらげ、食欲増進、疲労回復にも効果が期待できます。梨を熱すると体の陰を補う効果がありますので、簡単なデザートをご紹介しておきます。梨を半分に切り芯をくりぬいて、中に氷砂糖を入れて蒸すだけのものです。もっとお手軽にお鍋でお砂糖と煮ても良でしょう。
白キクラゲ: 粘膜を潤す作用により、喉の痛みや美肌に効果的です。豊富な食物繊維による便秘の解消、整腸作用もあります。乾燥したものが市販されていますが、水に戻してお鍋やスープに入れてお食事としていただくのが手軽です。蜂蜜をかけ、みかんや金柑、梨を添えて、おやつに召し上がるのもお勧めです。蜂蜜も喉や気管を潤し、栄養価が高く風邪予防、風邪症状を緩和しますので、相乗効果が期待できます。
次に白以外の秋にお勧めの食材です。
ミカン、金柑等の柑橘系果物:食欲を増進させ、喉の渇き、咳、痰を鎮める効果があります。風邪の時にはビタミンCやカロテンの保有量が多いので、是非、摂っていただきたいです。白い筋の部分には毛細血管を強化するヘスペリジンが含まれています。香りが良いのでストレスを緩和する作用もあります。もしも無農薬のみかんが手に入れば、日干しした皮をお湯に入れて「みかん茶」としていただくと気管支に効果的です。
クルミ:中国では「貴族の美容食」と呼ばれています。髪を黒くし、肌を潤し、便秘を改善すると言われており、実際、エネルギー代謝を高める働きがあります。リノール酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸を多く含み、ビタミンEとの相乗効果で活性酸素を抑えます。ただし消化が悪いので1日4個程度に抑えましょう。
秋に起こりやすい症状をケアするツボ
・鼻炎
呼吸は肺の機能と鼻が連動しているために出来ることです。このことから肺の不調は鼻に現れやすいのです。
睛明(せいめい):目頭と鼻の付け根の骨の間にあるツボ。目が疲れた時に無意識に押さえてしまう凹みです。骨際に沿って、奥に小粒のしこりがあれば、それを優しく押して下さい。鼻の通りが良くなります。目の疲れも同時に取れます。次の迎香のツボと一緒に使うとより効果的です。
迎香(げいこう): 小鼻の両脇の凹み。人差し指の腹でまっすぐ奥に押しながら少し回すように少し強めに押しましょう。鼻づまりに効果覿面。鼻に関する多くの症状に効果があります。
・喉の痛み
肺は呼吸を司りますので、喉の痛みも肺機能の低下から生じます。
少商(しょうしょう): 手の親指の外側(人差し指の逆側)の爪の生え際の角身の部分にあります。爪楊枝の頭の部分やヘアピンで押しましょう。肺経のツボで、呼吸器系の症状を和らげます。
天突(てんとつ):鎖骨の中央の凹みにあります。気の通りを改善します。気管や咽頭の症状に効果があります。
・気管支炎
肺が弱りますと呼吸関連に障害が出てきます。気管支炎もその1つです。
中府(ちゅうふ): 左右の鎖骨の外側の下から親指1本分下がった凹みにあります。肺経のツボで呼吸機能を高めます。気管支炎だけでなく肺炎にも効果的です。一説にはバストアップにもつながる?ということです!
孔最(こうさい): 肘を曲げた時にできるシワから手首のシワまでを3等分した、肘から1/3の横の線と、親指からの縦の線が交わる処にあります。肺の経絡のツボで、肺の気の流れを整えます。咳を鎮めるのに適しています。
以上、乾燥の季節・秋に潤いをもたらすためのケアについてお話しました。
東洋医学的見地では、肺タイプの人は自分のルールに沿った自由を欲しがります。もし自分のルールに沿わないことがあると、顔には出しませんが不快に思っています。これが積み重なると肺が弱くなってしまうのです。何かの鎖に縛られて、ゆったりと呼吸ができないようなイメージです。肺を健やかにするには深呼吸がお勧めです。静かに目を閉じて朝の澄んだ空気で深呼吸を10回すると「天の気」も元気にいられることでしょう。ヨガや気功等の呼吸法を実施することも良いですね。
実は私は肺タイプなのです。ですから今回は自身の経験も踏まえてお話させていただきました。この秋はあまり頑張りすぎず、旬の食材を美味しくいただいてゆったりと過ごすことにします。皆様方も心穏やかにお過ごしください。
「美容鍼まゆみん」中野真由美 https://www.mayuminsalon.com/
神戸松蔭女子学院大学卒業後、スパを運営する会社に就職.
23歳でマッサージ学院を立ち上げ 、森之宮医療学園鍼灸科に入学.
鍼灸師国家試験を取得した後、病院やスパ施設で勤務.
世界中のスパ施設を視察し、ヘルス&ビューティーの造詣を深め、
独自の鍼灸を開発.プライベートな美と癒しサロンには モデル等の著名人も多く来館.