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酸素とグリコーゲン

前回掲載より日が経ってしまい失礼しました。

前回は、カラダには「少しゆとりある量の酸素」が良さそうである事を書かせて頂きました。

今日は、皮膚にとって、「少しゆとりある量の酸素」は、どのように調整され、皮膚にとって良いものをもたらしてくれるのか、触れてみたいと思います。

 

改めて書く必要もないかもしれませんが、皮膚は体表より、表皮、真皮、皮下組織の三層構造になっており、汗腺や毛嚢は表皮から真皮を貫通した構造となっています。さらに、表皮の最外層には角質層があり、これが皮膚の「バリア」としての機能を支えています。

ですが、化粧品のみならず、痒み止めや抗生物質などの軟膏やクリームを皮膚に塗った時には、一定の効果が出現します。では、どのような経過で効果が出現するのかを、ここで考えてみたいと思います。

まず、シャワーを浴びたり、入浴したりした時のことを思い出してみて下さい。水分は皮膚の表面を流れ、長時間に渡ると角質と表皮が「ふやけた」という経験を多くの方がされていると思います。このことは、皮膚の表面から真皮あるいは皮下組織への物質の移行が、難しいことを示しています。つまり、何らかの物質(薬剤や有効成分)を水分に近いもので溶いて皮膚に塗っても、表皮までしか浸透しにくく、比較的早いうちに乾いてしまうことになります。

 

そこで、何らかの物質(薬剤や有効成分)を、脂質成分に含ませるという手段が用いられます。水分と異なり、脂質成分は浸透にかかる時間は遅めですが、真皮にまで到達することや、成分が長時間維持出来ることが知られています。その代表として、しばしば使われているものがが、脂溶性ビタミンCであり、ビタミンCが活性酸素種を除去する作用やメラニン色素の産生を抑える作用を有することから、美容にも良いとされています。また、皮膚にとって「ゆとりある量の酸素」の状態を保つことにも有用であると推測されます。このように化粧品などに含まれている、ビタミンCは酸素の調整役としての役割を持っている可能性が考えられるということになります。

 

しかし、これだけでは、皮膚に対するビタミンCの良さと、酸素の状態を調整するために脂質成分が有用であることを説明したに過ぎません。そこでもう少し、皮膚が良い状態を保つための条件からアプローチをしてみたいと思います。

ヒトの身体は血液を介した酸素や栄養分の循環の他に、各臓器におけるグリコーゲンが、エネルギーとして利用されることで良い状態を保っていることが知られてきました。

例えば、運動をし続けられる背景では、筋肉においてグリコーゲンが分解されてエネルギーとして使われています。また、筋肉以外の臓器へは、肝臓で貯蔵されているグリコーゲンが分解されて、血液を介してエネルギーとして分配されています。このようにグリコーゲンは、筋肉や肝臓における働きが一般に知られてきました。皮膚科学の領域においては、古くは1960年頃より表皮内のグリコーゲンの存在が報告されてきましたが、近年は江崎グリコの研究によっても、皮膚にグリコーゲンが含まれており、保湿だけでなく紫外線から皮膚を守り、加えてヒアルロン酸の産生を進める働きがあることが明らかになってきました。また、グリコーゲンが利用される際には酸素が必要であることも既知でありますので、化粧品にビタミンCが含まれていることで、皮膚にとってゆとりある酸素が保たれ、同時にグリコーゲンの働きを高められることになります。さらにグリコーゲンについては、江崎グリコが実験的に検証を行い、研究員の方が以下のように述べられています。

「グリコーゲンは体の至るところに存在し、それぞれの臓器でさまざまな機能を果たしています。そのひとつが、免疫細胞の近くにあると、細胞を活性化して元気になる機能。肌に対する実験では、実際グリコーゲンを塗ることで肌のうるおいがアップし、毛穴やシワ対策にも役立つことが証明されています。
また、グリコーゲンは細胞を紫外線ダメージから守る効果があることも分かっています。年齢・光老化の2つの対策にも関わっているなんて、女性にとっては最高の成分だと思いませんか?」(https://www.glico.com/jp/enjoy/contents/gg01/

 

このような働きを持つ、グリコーゲンですから、酸素と同様「少しのゆとり」がある方が、皮膚にとって良いことも容易に想像出来ます。

したがって化粧品に限らず、皮膚を何らかの目的で保護する、日焼け止めなどについても、同じ考え方が出来そうです。また、グリコーゲンは単一の成分として含まれるよりも、酵母エキスのような複合成分の一つとして含まれる方が安定する傾向があるとされています。また、酵母エキスには、アミノ酸が含まれ皮膚の細胞修復作用を有するだけでなく、グリコーゲンも含まれており、両者相まって「保湿」面での効果を発揮していると思われます。

また、バランスという観点で捉えた時、多くの化粧品やクリームにはマンニトールが含まれています。この物質は、酸、アルカリの双方に対して安定しており、皮膚の状態にかかわらず、化粧品やクリームの塗布後の安定性を確保する他に、過剰な組織内水分(例えば皮膚が浮腫んだ状態)を血液中に移行させる作用があり、「バランサー」としての役割が大きいと考えられます。

化粧品やクリームには様々な成分が含まれていますが、このように考えますと、その一つ一つに意味があり、用途に応じた成分の合わせ方を考えることが出来そうです。

 

 

参考

小林健正 (1959) 「各種皮膚疾患に於ける表皮グリコーゲンと真皮粘素性物質に就て」日本皮膚科学会雑誌、第69巻9号

https://withnews.jp/article/k0170210004qq000000000000000S00110901qq000014692A

https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2_JPP_an_2008117206.html

 

著者:
大阪産業大学 横井豊彦教授

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