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知っているようで分かっていない「脱毛」

春から夏にかけては肌の露出が多くなりますので、

脱毛に関心を示される方も多いことでしょう。

「脱毛はエステサロンでするもの」と思われている方も少なくないと考えますが、医療機関の脱毛と、エステサロンの脱毛には違いがあります。さらにはご自身で脱毛をする方もいらっしゃいますが、そこにも落とし穴があります。今回は皆様が漠然と知っておられる脱毛について、メカニズムや注意点、メリット等をお話させていただきます。

■脱毛のメカニズム
医療機関での脱毛はレーザー機器を使用した治療になります。レーザー治療とは単一の波長の光を増幅(波動の幅を大きくすること)して、皮膚に照射(レーザーを当てること)し、施術を行う方法です。

レーザー脱毛は、毛の黒いメラニン色素をターゲットにして照射を行います。単一の波長なので、ターゲット(毛のメラニン色素)のみに作用し、表皮やその周囲の細胞を傷つけることはありません。レーザーを当てると毛のメラニン色素に熱が吸収され、毛を伝って毛包全体に熱が届きます。その熱が周囲に広がり、毛の乳頭を破壊します。これにより、毛乳頭からの栄養をもらえなくなった毛母細胞は、毛を作りだすことが出来なくなります。その結果、毛が生えてこなくなるのです。

レーザーの熱は真皮層の中まで届きますが、他の組織に与える影響はないので、安心して受診していただけます。

■医療脱毛とエステ脱毛の違い
まず最初に知っていただきたいのですが、脱毛とは、毛根細胞にダメージを与えることにより、効果を得る行為で、現在、日本では医師法により、医師のみに毛根を破壊する行為(脱毛効果がある行為)が認められています。つまり、医師のいないエステサロンでは毛根を破壊する行為は認められていないのです。厳密に言いますと、エステサロンで認められているのは、毛の成長を一時的に遅らせて減毛する行為です。

医療の脱毛はレーザー治療であることをお話しましたが、エステサロンでは光脱毛が行われています。違いは簡単に言いますと皮膚に当てる光、つまり照射パワーの違いです。レーザー脱毛は光脱毛に比べて照射パワーが強いため、短期間での脱毛が可能になります。

では、なぜエステサロンではレーザーに比べて弱いパワーの光脱毛しかできないのでしょうか?それは、先に述べました医師法にも係わってきますが、エステサロンには医師がいないためです。医療機関には医師が常駐していますので、施術中やその後にトラブルがあっても、診察し、治療を行うことが出来ます。しかしエステサロンでは、施術中やその後に、何らかのトラブルが生じた場合、対応が出来ないため、レーザー機器を使用することができないのです。その理由で照射パワーの弱い光脱毛での施術となっています。光脱毛ではパワーが弱いため、何度も施術を受ける必要があり、自ずと脱毛の完了までに長い時間を要することになります。

昨今、エステサロンで脱毛が出来ると言われて長期間通ったにも関わらず、脱毛の効果が認められなかった方が、医療機関に来られるケースが多く発生しています。私のクリニックでも、エステサロンで3回程、脱毛の施術をしてもらったが、全く効果がなかったので…と来院された方もいらっしゃいます。

また、医療機関では、しっかりと知識を持ち、研修を受けた医師や看護師が毛に照射を行いますが、エステサロンでは、医療従事者ではないエステティシャンが照射をします。その場合、専門的な知識や資格がないため、トラブル発生時の対応が困難で、高いリスクを伴う可能性があります。実際、医療機関にはエステサロンの脱毛後のトラブルで受診される方もおられます。

■脱毛の期間と回数
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、レーザー脱毛は一度の施術でムダ毛が無くなるわけではありません。何度か照射を繰り返すことで、毛が生えにくくなり、徐々に毛が減っていきます。

効果的にレーザー脱毛を行うためには、毛周期に合わせた施術が必要になります。毛周期とは、毛の成長サイクルのことで、大きく3つに分けられます。毛が成長する「成長期」、成長が止まり抜けおちるまでの「退行期」、毛が抜けておちている「休止期」です。レーザー脱毛では、対象のターゲットとして成長期の毛にしか反応しないため、成長期に施術を行うことが望ましいです。ただ、毛周期には個人差や部位によっても違いがあり、厳密に見極めることは難しいのが現状です。一般的には平均6~8週間に1度のペースで、平均5~6回の施術で効果がでることが多いです。施術後、また成長期の毛が生えそろってきた頃に、次の施術を行うのも良いかと考えます。

最近は男性の方も脱毛されることが多くなってきました。男性の場合、脚や腕のムダ毛は、ほぼ女性と同様の回数で大丈夫ですが、ヒゲは毛根が深く、毛の密度も高いため、上述よりも多くの回数が必要になってきます。

 

■脱毛の効果は永久的なのか?

永久脱毛の定義は、「一定の脱毛施術を行った後に再発毛する本数が、長期において減少し、その状態が長期間に渡って維持されること」とされています。

医療機関でのレーザー脱毛では、脱毛する部位やそれぞれの毛の生え具合等に個人差はありますが、ほとんどの方はムダ毛が目立たなくなります。ですから上述の定義に当てはまります。ただ、永久と言いましても、永久に毛が生えてこず無毛の状態を保つことが出来るという意味ではありません。時間の経過により、若干ではありますが、毛が再生することはあります。

■皮膚に対する負担、脱毛後のケア方法

脱毛の施術により、皮膚がかぶれたり、何らかの悪い影響が出るのではないか?と心配される方も多いと思います。確かに脱毛レーザーの照射直後には軽い赤みと刺激が生じる場合があります。それは毛穴周囲の皮膚の炎症によるもので、多くの方に起こる症状です。時間の経過とともに自然に改善していきますので、あまり心配することはありません。一部、症状がひどい場合や長引く場合、また、かゆみが強い場合などは塗り薬を処方します。

レーザー脱毛は毛根細胞を破壊することで、効果を得る施術です。したがって、脱毛後のお肌は少なからずダメージを受けており、非常に敏感な状態になっていることを知っておいてください。施術後の当日はレーザーの熱の影響で、皮膚は炎症がおこりやすい状態です。そのため・湯船に浸かって体を温める・飲酒・激しい運動等は控えていただくことになりますが、石鹸を用いてのシャワー等は、治療の当日からでも問題はありません。

また、脱毛後のお肌は敏感になっており、乾燥しやすい状態ですので、普段のお手入れ以上に、しっかりと保湿をするように心がけてください。

脱毛の治療期間中は紫外線ケアも怠らないようにしましょう。特に露出部のお肌は紫外線に反応しやすくなっていますので、外出の際には必ず日焼け止めを使用してしっかりと予防するようにしてください。極端に日焼けをしてしまうと、レーザーが肌のメラニン色素にも反応してしまい火傷のリスクが高くなるため、照射することができなくなるので要注意です。

脱毛後に日焼けをすると炎症が起きやすく、色素沈着の可能性が高まりますので、気をつけてください。お顔の脱毛をされる場合は一年を通して、腕や脚をされる場合は、夏には日焼けをしないように気をつけましょう。そもそもお肌にとって日焼けは大敵ですので、紫外線ケアは脱毛云々に係わらず、しっかりとしていただきたいです。

 

■脱毛部位によっての注意点

脱毛を希望される部位は年齢層によって違います。脇、腕、脚は比較的、若い方に多く、中高年以上になりますと、お顔の脱毛を希望される方が増えてきます。それぞれの部位によって差はありますが、多少、トラブルが生じる場合もありますので述べておきます。

お顔・背中・胸等、脂肪腺が多い部分や、脇、Vライン等、元々毛質が太い部位は照射後に毛嚢炎(ニキビ)が生じる場合があります。たいていは一過性の症状で自然に快方に向かいますが、症状が強く、改善しにくい場合は塗り薬を処方します。

上述の症状はレーザーの熱により、毛穴のバリア機能が軽いダメージを受けることから、その中に雑菌が入ると一時的に炎症を起こすことが原因と考えられています。

脱毛部位に関係なく知っておいていただきたい注意点もあります。レーザー脱毛は毛根周囲の組織に反応するため、成長期の毛にしか反応しないように、毛穴の中に毛が無い状態では、照射のターゲットが存在しないため反応しません。ですから自己処理をされる場合は、毛抜きやワックス等の使用は控え、カミソリやシェーバーで毛をそるようにしてください。毛を抜くのではなく、そった場合は毛根にターゲットとなる黒い毛の細胞が残っているため、治療が可能になります。

一度、脱毛をすると元通りの毛の状態に戻すことは難しいので、眉毛等を脱毛される場合は、よく考えてからされることをお勧めします。眉毛のカタチ、太さ等には流行りがあります。一旦、細い眉に脱毛された方は、将来的にナチュラルな眉が流行った場合に、元に戻すことはできません。同じことが男性のヒゲにも言えます。脱毛した部分には、ヒゲは生えてきませんので、こちらも将来的にワイルドなヒゲを生やしたいと思っても、無理というものです。

■自己処理のデメリット

脱毛をしてもらうのではなく、ムダ毛を自分で処理される方も多いと思います。ですが、カミソリでムダ毛を剃ると、カミソリ負けと言い、剃った部分が赤くなったり、かゆくなったりしてしまうことがあります。頻度にもよりますが、これを繰り返していますと、皮膚が黒ずんだり、傷跡が残ってしまう場合があります。

また、カミソリで皮膚の表面を傷つけてしまうと、お肌のバリア機能が低下して保てず、乾燥して、肌荒れを起こすことがあります。他にも、カミソリや毛抜き等の自己処理により、傷ついた肌にかさぶたが形成され、毛穴が塞がってしまい、そのまま皮膚の中にムダ毛が埋もれて「埋没毛」と呼ばれる状態になってしまうこともあります。

毛を抜く、剃るという行為は、お肌にとっては強い刺激となりますので、数年、何十年に渡り、繰り返して行うことは、大きな負担になってしまいます。レーザー脱毛により自己処理の必要性がなくなると、肌を刺激することがなくなり、結果的に健やかなお肌を維持することが出来ます。

 

■美容皮膚科の視点から、脱毛の利点
毛穴には元々、多くの菌が繁殖していますが、毛があることで、より菌が繁殖しやすくなってしまいます。顔や胸、背中等のニキビのできやすい部位では、脱毛することで毛穴にニキビ菌が繁殖しにくくなり、ニキビの改善を期待できる場合もあります。

ムダ毛が無くなることにより、毛穴が引き締まり、お肌のキメが整い、クスミが改善し、綺麗に見えます。特にお顔は美肌効果も期待でき、お化粧のノリも良くなります。

さらにレーザーの種類によっては・シミを薄くする・毛穴を引き締める等の美肌効果もありますので、一挙両得につながるというメリットもあります。実際に脱毛レーザーを美肌用のレーザーとして治療に使用している医療機関も多数あるほどです。

私のクリニックでも肌質の改善をご相談にこられた患者さんに、先に脱毛をお勧めする場合もあります。

エステサロンでは施術を断られることが多いと思いますが、医療機関ではアトピー性皮膚炎の方でも、重症であったり色素沈着がひどくなければ、レーザー脱毛をしていただけます。軽い湿疹でしたら、却ってよくなるケースもあるほどです。

 

 

以上、脱毛に関してお話させていただきましたが、脱毛がどのようなメカニズムの医療行為であるのか?お分かりいただけましたでしょうか。

最初に書きましたが、脱毛は黒い毛にレーザーが反応して行う施術ですので、白髪になってからでは手遅れになります。体毛は白髪にはあまりなりませんが…どうしようか?と悩まれている中高年の方は白髪が増えない内に来られるほうが良いかと思います。

脱毛の部位は、脇、腕、脚等を望まれる方が多いですが、私の一番のお勧めは「お顔」です。前述しましたように、お化粧のノリが良くなると同時にシミやクスミ等への美肌効果も期待できますので、メリットは大きいです。随分以前のお話ですが、昭和を代表する大女優が、お化粧をする前に毎日、顔を剃ると言っておられました。理由は先に書いた通り…お化粧のノリが良いからです。その女優は今もご活躍ですが、ひょっとして、もう毛を剃ることなく脱毛をされているのでは?と、思ったりしています。

もう1つ個人的なお勧めとしては「うなじ」があります。お顔の廻りがすっきりとして、髪をアップにするとその効果は抜群です。脱毛を検討されている方はお顔とともに候補の部位に入れてください。綺麗なうなじは、お着物を着たり、パーティでシニヨンに結うと、後方から注目の視線を集めること間違い無しです!

 

 

松田七瀬 マエダクリニック勤務 http://maedacl.jp/
経歴 平成17年 大阪市立大学医学部付属病院 初期臨床研究医
平成19年 大阪南医療センター皮膚科
平成20年 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター
平成25年 シロノクリニック 大阪市内皮膚科クリニック等で勤務
所属 日本皮膚科学会認定専門医 日本抗加齢学会専門医
日本皮膚科学会 日本美容皮膚科学会 日本アレルギー学会
日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会 日本抗加齢医学会

2018.05.13 column