それは「イボ」ではありませんか?
昨今、化粧品のCMでよく「イボ」という言葉を聞きます。
イボに効くとされる内服薬やサプリメントも多く販売されています。テレビのCMではありませんが、ご自身のお肌のトラブルを、ひょっとして「イボかも?」と思われている方も多いかと存じます。今回は女性を悩ませるイボと、それとよく似た「ホクロ」についてお話します。
■「イボ」とは?
そもそも一体、イボとは何なのでしょうか?一般的にイボと呼ばれているものには、大きく分けて2つの種類があります。1つは「ウィルス性のイボ」、もう1つは「老人性のイボ」です。
ウィルス性のイボは美容の範疇ではないので、詳しくお話することは割愛させていただきますが、皮膚にパピローマウィルスと言うウィルスが入り「できもの」となる症状です。子供や思春期の若者に多く見られ、ウィルスが原因のため、放置すると大きくなったり人にうったりすることがあります。自然治癒はあまり期待できません。ウオノメやタコ等との区別も難しく、悪化してから受診される方も多いです。イボのようなできものが治らず気になられる場合は、早めに皮膚科を受診するようにしてください。
一方の老人性のイボは正式には脂漏性角化症と言います。多くの女性の肌を悩ますイボは、こちらの範疇に入ります。また赤イボとも呼ばれる加齢により出現する赤い斑点もあり、こちらは老人性血管腫と言われています。
名称では老人性…となっていますが、イボは20歳代から出現し、80歳以上の高齢者ではほぼ全員に認められます。顔、首、頭、体幹などに出来る盛りあがった皮膚のできもので、色は褐色から黒褐色、境界が明らかで、様々なカタチをしています。大きさは1ミリ程度から数センチまでと大小様々です。特に女性を悩ませるお顔のイボは、一般的には正面より側面に発生することが多いように見受けます。体のどこにも出来ますが、手のひらや足の裏にはできません。
イボの原因は加齢、紫外線に伴うものであり、最初にシミが出来、それが盛り上がっていく場合も多いです。医学的には諸説ありますが、私はシミが盛り上がったものがイボと考えて問題ないと思います。
■「ホクロ」とは?
イボと色や形状が似たものに「ホクロ」があります。ホクロは正式には母斑細胞性母斑や色素性母斑などと言います。褐色ないしは黒色で、時には正常皮膚色の色素斑あるいは腫瘤で、表面は平らなもの、イボ状のものもあり、硬毛を伴うことがあります。
母斑細胞性母斑の中で比較的小型で、生まれた時には存在せず、後天的に生じて次第に増えたり大きくなったりするものがホクロと呼ばれています。ホクロは、皮膚の表皮、真皮境界部や真皮層に存在する母斑細胞の増殖によるもので、シミやイボとは違い、加齢や紫外線が原因ではありません。一部の美容関連のサイトでは紫外線や刺激が原因とされているものもありますが、医学的には明らかにされておらず、予防の対策も解明できていないのが現状です。
■「イボ・ホクロ」と「皮膚癌」との区別
イボとホクロの両者ともに悪性腫瘍「皮膚癌」との区別が問題になることがあります。皮膚科ではダーモスコピーという皮膚表面を拡大して観察することのできる医療機器を使用して、悪性の可能性がないかチェックします。
一般の方が悪性の所見の目安となるものとして
・大きくなるスピードが速い
・盛り上がった皮膚の周囲の辺縁が不整
・表面の色に濃淡がある
・表面が出血している、ジュクジュクしている
・カタチが左右対称ではない
等が、挙げられます。
皮膚科専門医であれば、多数の症例を診てきているため、特徴的な悪性腫瘍とイボやホクロは、視診やダーモスコピーで判別できることがほとんどですが、時には特徴的な所見が無く、判断が難しい場合もあります。悪性の可能性が疑われる際は皮膚生検と言って、皮膚の組織を一部切り取り、病理組織検査による診断が必要になります。
最近は皮膚科や形成外科の専門的な経験を積むことなく、美容外科クリニック等に勤務されている医師も増えており、ホクロと診断して治療したものが悪性腫瘍であったと問題になったケースも報告されています。ですから、もしもイボやホクロのようであっても何か違う感じがする場合は、しっかりと経験を積んだ皮膚科あるいは形成外科の専門医を受診されることをお勧めします。
日本人は黄色人種ですので、白人よりは肌が紫外線に強く、皮膚癌の発生率も低いとされています。ですが紫外線をたくさん浴びるとシミや皮膚癌のリスクは高まりますので注意をするに越したことはありません。
■イボの治療
最も一般的なイボの治療は、冷凍凝固療法です。液体窒素という超低温の液体を綿棒にしみこませ、患部を急激に凍結させることで、イボを取る治療です。イボの大きさにもよりますが、完全に取りきるには数回の処置が必要になります。
液体窒素による治療は短時間で出来ます。治療後にテープ等を貼る必要もありません。入浴や激しい運動も普段通りにしていただけます。治療した患部は1週間程でかさぶたとなり、約2週間でかさぶたがはがれます。かさぶたが取れた後の患部が盛り上がっていなければ治療は終了となります。かさぶたが取れてもまだ皮膚に盛り上がりが見られたら、2回目の治療を行います。こうしてイボが完全に取りきれるまで繰り返し治療をすることになります。
同治療方法には欠点もあります。患部へ液体窒素をしみこませる際の細かい微調整が難しく、治療後には炎症後色素沈着と言う、シミのような跡が残りやすいのです。特に顔や首等にできた露出部の小さいものや細かいものは、盛り上がったイボは取れても、イボがあった部分の周囲に一回り大きく炎症後色素沈着が残ってしまい、綺麗に治らないケースも少なくありません。
小さくて細かいイボの場合、お勧めしたいのが炭酸ガスレーザーによる治療です。この治療方法では、一度で綺麗にイボを治すことが可能です。冷凍凝固療法に比べて、小さいイボへの細かい処置ができます。治療後1週間程度は患部をテープ保護することが必要になりますが、凍凝固療法に比べると綺麗に治りますので、露出部の比較的小さなイボは、炭酸ガスレーザーによる治療がお勧めです。治療後3ヶ月程度は、赤みや炎症後色素沈着が残る期間がありますが、メイクでカバーすることが出来ますし、時間の経過とともに徐々に目立たなくなります。同治療法は私の臨床経験上、非常に満足度の高い処置です。
イボの大きさが数センチ以上と大きいもの、また一度で確実に取っていまいたい場合は、上述した2つの治療方法での対応は難しく、外科的切除(手術)の対象になります。
■「ホクロ」の治療
ホクロは残念ながら、冷凍凝固療法で取ることはできません。また自然に取れてしまうこともありません。もしも取りたい場合は、手術(メスで切って縫い合わせる)あるいは、炭酸ガスレーザーによる治療があります。
一般的な考えとして、数センチと大きいものは手術の対応となります。手術をすると、1度で確実に取りきることが出来ますが、抜糸の必要があったり、縫った後の傷跡は残ってしまいます。炭酸ガスレーザーの治療は手術に比べて短期間で行うことができ、皮膚にメスを入れる必要がないので、手術に比べると気軽に受けることができます。治療後の処置も比較的しやすいですが、大きさや深さによっては1度で取りきれなかったり、再発してしまうことがあります。上記2つの治療方法のいずれでも、治療後1週間程度はテープ保護が必要になります。
ホクロは人相に影響するとか、あまり触ると良くないとも言われたりしますが、このことに医学的な根拠はありません。少し古いお話ですが、往年のハリウッド女優、マリリン・モンローや、かつてのスーパーモデルのシンディークロフォード等、口元の上にあるホクロは色気があるとも言われ、メイクで真似る人もいたほどです。ご自身のホクロをポジティブにとらえられるのであれば、あえてホクロの治療をする必要はないと考えます。ただ、どうしても気になる方は、大きさや部位、ご本人の希望も含め、受診された病院で相談されるのが良いでしょう。
■イボの予防
イボはシミが盛り上がったものと前述しましたように、予防もシミと重なる部分が多いです。シミの予防に大きな比重を占めるのは紫外線ケアです。ここで簡単にイボの予防にもつながる紫外線ケアをおさらいしておきましょう。
紫外線ケアには外的予防と内的予防があります。外的予防は、紫外線を遮り浴びないように、帽子、日傘、スカーフ、手袋等で備える以外に、日焼け止めを用いる方法があります。
日焼け止めには紫外線を吸収するタイプと、紫外線を散乱させるタイプの2種類があります。紫外線吸収剤の日焼け止めのほうが高い紫外線防御効果はありますが、人によっては肌に刺激を感じる方もいます。昨今は技術革新により肌への負担が少ない日焼け止めも登場していますので、ご自身の肌に合う日焼け止めを探すようにしてください。
紫外線の強い季節や海、山等、レジャーに行かれる際は、なるべく防御力の高いSPF50以上の日焼け止めを使われるほうが効果的です。冬や街中等、紫外線が比較的少ない状況ではSPF20~30程度のものでも大丈夫と思います。日焼け止めの効力を持続させるには、こまめに塗りなおすことが大切です。この努力がシミやイボのケアにつながりますので怠らないようにしましょう。
次に内的な紫外線ケアですが、こちらは「飲む日焼け止め」とも言われ、抗酸化作用があり、肌細胞の代謝を促すサプリメントの服用で体の中から紫外線予防をすることです。
また中年以降に首に多発するイボは、軟性線維腫(アクロコルドン)と言い、原因は加齢・肥満によるものと言われています。それに加えて慢性の刺激も原因の1つとされていますので、首筋や首もとをゴシゴシとこすったり、刺激になるような服装、スカーフ、ストール類の着用には気をつけたほうが良いでしょう。
■イボに良い食品
イボの予防で一番知られている食品はハトムギだと思います。ハトムギは医療品原料での表記はヨクイニンです。テレビ等のCMで、よく聞かれますね。ヨクイニンは良質なタンパク質・アミノ酸を含み、漢方では新陳代謝を促す効果が言われています。ですから肌のターンオーバーをスムースにして、イボにも効くとされています。個人差はあると考えますが、私の患者さんではヨクイニンを服用されて効果が現れた方もいます。
何度も書きましたがイボはシミが盛り上がったものですので、イボをケアする食事もシミのケアと同様に肌のターンオーバーを整え、抗酸化力の強いビタミンC、B1、E、さらには
アスタキサンチン、ポリフェノール、βカロテン、リコピン等の有効成分が含まれている食品がお勧めです。
※以前の紫外線やシミに関するコラムでも記していますので、お時間が許せばバックナンバーを読んでいただければと思います。
ここでは代表的なものだけを簡単に記しておきます。
・ビタミンC :イチゴ、レモン、キウイ等の果物 ブロッコリー、じゃがいも等の野菜
・ビタミンB1 : 豚肉、鰻、いくら等の肉や魚
・ビタミンE: アボカド、カボチャ、ピーマン等の野菜 たらこ、ほたるいか等の魚介類
・アスタキサンチン:サーモン、エビ・カニ等の甲殻類
・ポリフェノール:ブルーベリー、赤ワイン、コーヒー、紅茶
・βカロテン:人参、カボチャ等の緑黄色野菜
・リコピン:トマト他、赤い色の果物や野菜
上記の有効成分の中で、ビタミンCは水溶性のため過剰摂取をしても体外に排出されますが、ビタミンEは脂溶性ため過剰に摂取すると副作用があります。ですからサプリメント等でビタミンEを摂られる場合は量には注意してください。
またコーヒーや紅茶もポリフェノールを含みますが、こちらはカフェインもありますので、胃の弱い方は飲み過ぎに気をつけましょう。
個人的に特にお勧めしたいのはビタミンCです。Cは体内で作ることはできないので、飲食で摂ることを心がけてください。また効果が期待できる量は1日500mg~2000mgとされていますので、食事だけでまかなうには少し無理もあり、サプリメントを活用されることもお勧めします。体内に貯めておくことが難しいので、1度に大量に摂取するより、1日、数回に分けてこまめに摂るほうが効果が期待できます。
よく首筋には年齢が現れると言います。お顔のシミやイボはある程度、メイクでカバーできますが、首筋のそれはカバーできません。その意味では首筋のイボでお悩みの方は美容皮膚科で治療されると、見た目年齢を若返らせる良い投資になるかと思います。
松田七瀬 マエダクリニック勤務 http://maedacl.jp/
経歴 平成17年 大阪市立大学医学部付属病院 初期臨床研究医
平成19年 大阪南医療センター皮膚科
平成20年 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター
平成25年 シロノクリニック 大阪市内皮膚科クリニック等で勤務
所属 日本皮膚科学会認定専門医 日本抗加齢学会専門医
日本皮膚科学会 日本美容皮膚科学会 日本アレルギー学会
日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会 日本抗加齢医学会