井出徹先生 ~インタビュー~
井出デンタルクリニック院長 噛みしめ症候群研究会 会長 http://ide-dental.info/
銀座にある井出デンタルクリニックは、歯科医院であって歯科医院の範疇を越えたクリニックとして、多くの患者さんが遠方からも来院されています。こちらでは、虫歯が無いのに歯が痛いとか…歯の根が腫れていないのにズキズキするとか…通常の歯科では分かりにくい症状で来られる方が多いのです。医院長の井出先生の治療は患者さんとのコミュニケーションから始まります。医者の自己満足に終わらず、患者さんが何を望んでいるかに応えることがモットーです。歯や口腔の不具合から「肩や首のコリ」、「頭痛」、「冷え症」に至るまで、相談に乗って治療してくださいます。
これら多くの方が抱えておられる体調不良は「かみしめ症候群」からくるものだそうです。先生は「かみしめ症候群」の研究と臨床に30年を費やし、独自に開発したマウスピース型の姿勢矯正装置を用いた治療法を確立されました。今では全国の歯医者さんに、かみしめ症候群の治療法を広げる活動もされています。
今回は歯医者さんであって歯医者さんを越えて、全身を診てくださるスーパードクター井出先生に、「かみしめ症候群」の第一人者になられた経緯と治療内容について、お話をお聞きしました。
歯科医師から出発して「かみしめ症候群」の発見に!
元々は歯科大学で学び、歯科医院に勤務する世間一般の普通の歯科医師でした。学生時代には、面倒見の良い先輩や素晴らしい教授に恵まれ、歯、歯茎、歯の根、歯の神経等、歯科の基本を、しっかりと学びました。当時、歯科の先進国はアメリカでしたので、南カリフォルニア大学の夏季講習にも参加しました。最高のプロフェッショナルの技に触れる機会にも恵まれ、良い歯科の臨床医となることを志していました。
卒業後は歯科医院に勤務して学生時代に学んだことを実践し、より技術を磨きました。4年ほどが経って、そろそろ独立を…と思い始めた時に、丁度、お世話になっていた埼玉県の先生が医院の後を継ぐ歯科医師を探しておられ、そこを引き継ぐことになりました。その頃は虫歯、歯周病等の予防の歯科が強く言われた時期で、連日、40~50人もの多くの患者さんを診る日々でした。忙しさに追われる一方で、ただただ患者さんを診る流れ作業的な治療に、自身が疑問を抱くようになってきました。果たして「このままで良いのか?」と!
その時にタイミングよく…と言うか、運命の巡り合わせ…というか、大学時代の恩師から連絡があり、虫歯や歯周病の保険治療だけでない、噛み合わせや口腔外科、義歯等の自由診療に挑戦しないかと持ちかけられ、東京の虎の門で自由診療のクリニックを始めました。
ある意味、この開院が「かみしめ症候群」の発見に結び付くきっかけでした。医者は臨床経験により育てられます。私は虎ノ門のクリニックでの患者さんの治療に携わることで「かみしめ症候群」に行きつくことになったのです。
歯科医院なのに、不思議な症状の患者さんが続々来院
虎ノ門のクリニックは自由診療でしたので、歯の噛み合わせや、義歯等の患者さんが多く来られました。
虫歯でないのに歯が痛い、上手く噛めないので美味しく食事ができない、歯の調子が悪く体調も悪化等々、なぜか今まで歯科の勉強では習ったことのない症状を訴える患者さんが集まるようになったのです。その方々を治すのに教科書も臨床経験も無かったので、同僚や先輩、大学の教授に質問を浴びせました。
ですが誰一人として、私が納得する答えをくださる先生はいらっしゃいませんでした。
情けないことに目の前に悩んでいる患者さんがいるのに治療の方法が分からないのです。
治療ができないのですからクリニックの経営状態もだんだんと悪化してきました。私の歯科医のキャリアで一番苦しい時期だったと思います。ついに虎ノ門のクリニックを閉め、義理の父が経営する神奈川県の藤沢のクリニックに勤めることしました。
ところが不思議な症状の患者さん達は、私を追いかけ虎ノ門から藤沢までやってきたのです。首都圏の方ならお分かりと思いますが、都心から藤沢までは結構、時間がかかります。そこを埼玉や千葉からも、患者さんが来るのですから!
大げさな表現で言えば、私も腹をくくって、不思議な症状の患者さん達と向き合わねばならないと思いました。
誰にきいても分からない答えは、自分がみつけるしかない!
そこから私の歯科の範疇を越えた研究が始まりました。
今まで歯科で習ったことに答えは無いのですから、まずは教科書を疑ってみたのです。
歯科の教科書では「上顎が基準」で、下顎がずれると、噛み合わせが悪くなり周辺の部位にも支障をきたす…とありましたが、果たしてそれは本当なのか?
この疑問を検証するため、歯科技工士さんに咬合器を紹介してもらい、全ての患者さんの歯型を取って、歯と咬合の関係をチェックしました。
その結果、データは下顎が基準ではないことを示していました。症状が重症な患者さんであればあるほど下顎ではなく、上顎が歪んでいることが分かったのです。軽度の方は上顎だけの歪みですが、重度の方になると上顎だけでなく頭蓋骨までもがずれていることが判明しました。頭蓋骨の一部が上顎なのですから、当たり前ですよね。頭蓋骨が体の正常な位置に納まっていない方は顎関節症等になり、それがひどくなると脳にも影響が出てくるのではないかと考えられます。
では、なぜそのように頭蓋骨と下顎にずれが生じるのでしょうか?そのヒントが一冊の専門書にありました。
そちらには正常では、人の上下の歯は離れていると記されていました。上下の歯が接触するのはモノを咀嚼する時、飲み込む時だけで、それ以外の時に上下の歯が接触している場合は、「かみしめ癖」があるからだと書いてありました。
かみしめ癖がある場合は歯や顎関節に大きな負担をかけ、痛みの原因になるとあったのです。
ひょっとして…私の患者さん達は、かみしめ癖から、下顎と頭蓋骨の位置にずれをきたし、訳の分からない痛みや体調不良になったのではないかと?疑いました。
それが証拠にある患者さんは「ハンカチを噛んでいると体が楽だ」と言っていました。患者さん達の痛み、不調の原因は歯そのものではなかったのです。歯をかみしることによって起こる症状だったのです!
口腔ではなく、首の状態が良くなると症状は解消する!
原因不明の歯の痛みで悩む患者さん達への治療の糸口を、おぼろげながら見つけた私は、遠路、治療に来られる患者さんのためにも、交通の便の良い銀座にクリニックを移しました。ここで本格的に「かみしめ」の患者さんに対応する治療の研究にかかりました。
私の推論は「なんか歯ではない!」「なんとなく首かな?」という処まで来ていました。そんな時に10年以上前に虎ノ門のクリニックに来院されていた患者さんと再会しました。
その方が「原因は首でした」と言われたのです。整形の先生に首の状態を治してもらうと、歯の痛みや口腔の不具合も無くなったと言うのです。それは私の推察が結論に変わった瞬間でした。
そうなのです。首の状態が良くなれば、その上にある下顎、上顎、頭蓋骨が、ちゃんと正しい位置に納まり、歯科、口腔の不具合の改善は言うまでもなく、全身の状態が良くなるのです!
それにはまず、かみしめから来る周辺部位の緊張をほぐすことが肝心です。上の奥歯と下の奥歯がひっついている状態を離して解消せねばなりません。そこでオリジナルのマウスピースを用いる治療を考案しました。
整形外科の先生との意見の一致で治療方法を確立
マウスピースの考案までは行きつきましたが、さて私の理論で首の骨・頸椎の問題を本当に解決できるのか?下顎を固定するマウスピースにより、頭蓋骨を動かし正常な位置にもっていけるのか?整体や整形他、色々な先生にお話を聞いてみましたが、なかなかラチがあきませんでした。
自分の考案した治療方法に、確信を与えてくれる医師はいないか?生まれて初めてパソコンに向かって長時間のネットサーフィンをして、やっと、一人の整形外科の先生に行きつきました。さっそく私は患者としてその先生に会いに行きました。そして「骨は動きますか?」と先生に尋ねますと「動きます!」と答えが返ってきたのです。初めて私の理論と意見が一致する先生が現れたのです。
その後、私の考案したマウスピースを装備した患者さん達を、その整形の先生に診てもらい、筋肉の緩め方、緊張をほぐす方法を指導していただきました。マウスピース治療と並行してマッサージや口の運動等をしてもらうことにより、徐々に結果が出てくる患者さんが増えてきました。
銀座に出てきて10年になりますが、やっと「かみしめ症候群」の的確な治療がカタチになったという感じです。
ついつい歯科医師の視点から「かみ合わせ」を優先に考えてしまいのすが、かみ合わせとかみしめは分けて考えねばならなかったのです。
かみしめ症候群の症状とマウスピース治療
まだ、一般の方々には「かみしめ症候群」は耳慣れないかと思いますので、ここで、かみしめ症候群からくる体調不良を挙げてみましょう。
・歯覚過敏・歯周病・肩や首のコリ・めまい・自律神経失調による不眠、食欲不振・猫背
・体の歪み・緊張型頭痛・顎関節症・冷え・口の周りのシワ・法令線等々。
健康だけでなく美容に係わることも多くあります。
歯科の範囲を越えて全身の不調が、かみしめ症候群からきていることが多いのです。
次に私が開発したマウスピース治療の理論をお話します。
姿勢矯正を図るのは下顎のマウスピースです。
下顎に負荷をかけることで首と頭蓋骨の関係を正します。下顎が力点になり、顎関節が支点になり、頭蓋骨を正しい位置に導きます。
分かりやすい言い方をすれば、赤ちゃんの首がちゃんと座ることに似ています。かみしめは体の歪みから始まるので、マウスピースを利用してテコの原理で首の上に正しく頭蓋骨がのっかるように仕向けていくのです。
かみしめの解消で本来の健康を取り戻す
人は歳を取るにつれて前屈姿勢になる傾向かあります。
一方で最近の子供や若者は老人でもないのに姿勢が悪く猫背等が多いことも指摘されています。
これらのことは全て、ちゃんと首の上に正しく頭が乗っかっていないことから生じるもので、前屈姿勢もお子様達の姿勢の悪さも、間違いなく、かみしめ症候群です。
体が前かがみや猫背になると、肺が押しつぶされ容量がせまくなり、呼吸も浅くなります。頭蓋骨の位置を正常に戻し、前かがみが治ると従来の正常な呼吸に戻ります。呼吸が正常になると、血の巡りが良くなり、酸素が体のすみずみに行き渡り、全ての体調不良が改善されます。酸素がちゃんと行き渡っていると、もちろんお肌の調子も良くなります。
何も特別なことではなく、体のバランスを当たり前の状態に戻すだけです。それを補助するのが、私のマウスピース治療です。
かみしめ症候群の予防方法
まずは筋肉の緊張をほぐすことが第一です。
血の循環、気の巡りを良くする簡単なマッサージをお教えしましょう。
・こめかみを両手で軽く挟むようにして、頭の上のほうに持ち上げる
・唇を一文字に結び、内側に巻き込むようにする。
・顎の先を両手でつまんでマッサージ
・鎖骨の下をマッサージ
・足の付け根の鼠径部をマッサージ
これらのマッサージをするだけでも、かみしめは緩和されます。ひょっとして…と思われる方は是非、試してみてください。
私のお話をお聞きになって…私が歯医者であることを不思議に思われた方も多いかと察します。
歯や口腔の不調の患者さんを多く診させていただき、かみしめ症候群にたどりつきました。
本来、人間の体は健やかに生きるための状態を保つようになっています。それを生活環境等によって自分達で歪めてしまっているのです。
私の治療は、体を本来の状態に戻すお手伝いです。かみしめによる悪循環を、正しい循環に戻すことで体調もお肌の調子もよくなるのです!
【著作】 歯医者が書いた歯医者に行かなくてすむ本 (すばる舎)
その歯の痛み、8割は削らなくても治ります! (内外出版社)