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酸素と活性酸素

酸素が、生体にとって必要不可欠であることは言うまでもなく、またある程度の酸素の「ゆとり」が生体にとっては望ましいものであると考えられることを、前回の記事で紹介させて頂きました。

今回は、その酸素と活性酸素について少々述べさせて頂きます。

活性酸素は、発ガンのほか、紫外線障害、放射線障害、さらには、過剰な酸素による毒性の発現や、遺伝子の変異などに関与していることが知られています。加えて、生体内の基本的な生物学的現象である、アポトーシスや、老化、シグナル伝達などにも関与していることも、明らかになっています。

東京女子医大の佐中教授 (1991年当時) によれば、「人類の祖先が地球上に現れて以降、極めて積極的に体内に酸素を取り込んできた。そのことは生体内の臓器の成長や進化には必要な過程であることは想像に難くない一方で、酸素自身が高い化学的反応性を示すがゆえに、細胞障害性を有するフリーラジカルを産生することになるのである。」のだといいます。

フリーラジカルが、どういったものであるかを知る前に、まず酸素などの原子の構造について考えてみましょう。酸素などの原子は、物質を構成する最小の単位であり、例えば水であれば、酸素原子1つと水素原子2つから成ります。こういった原子は、構造上、中心に原子核と呼ばれる陽子と中性子から成るコアを有し、周囲を電子が取り巻く構造になっています(ただし水素原子の原子核は陽子1つのみ)。また、陽子の数と電子の数は、基本的に等しい数になります。更に、陽子が正の電荷(つまりプラス)を帯び、電子が負の電荷(つまりマイナス)を帯びているため、電気的にはバランスが取れているということになります。余談ですが、物の重さの99.97%は原子核の重さであるそうです。

この原子核を取り巻く電子は、あたかも公転するかのような状態を呈しているとされています。ところが、その状態は軌道を含めたドーナツ状の空間をイメージした方が分かりやすく、そのドーナツ状の空間が原子核に近い方から、K殻、L殻、M殻、N殻と殻名が決められています。更に、そのドーナツ状の空間内に、電子が配置された軌道が存在している状態を想像頂ければ、実情に近いと考えられます。

では、そのドーナツ状の空間内の軌道はどのようになっているのでしょうか?これを正確にご説明するのは専門家でなければ無理だと思われますが、専門家ではない私からイメージだけは掴んで頂けるように少し説明をさせて頂きたいと思います。

まず軌道と聞けば、そこに電子が存在し、あたかも衛星のような回転運動をしている様子が想起されますが、そのイメージ自体が実態とは異なるようです。実際の軌道は、あくまで電子が「存在し得る」空間であり、そこに電子が存在する確率は100%とは言えないようなのです(とは言え、安定した状態での確率は100%に近づくようです)。何を中途半端なことを書いているんだとお叱りを受けそうですが、ここに「活性酸素」が生まれるポテンシャルが存在するということもまた確かなようなのです。まず、このことを前提に読み進めて下さい。

次に軌道には電子が存在することになるわけですが、その軌道は軌道が存在する殻が、原子核の中心から遠ざかるほど、殻の中に存在する軌道の数は増えていきます。この軌道の数が増えることと、殻の中に含まれる電子の数は関連があります。また、個々の軌道にはそれぞれ名称があり、そこに含まれる電子の最大数が決まっています。また原子核の中心から遠ざかるほど、原子核と電子の間に働く引力が弱くなることも、軌道の数が増える理由の一つとして捉えれるでしょう。

このように複雑な構造になる背景には、電子が回転運動をしており、磁気を発生していることが、理由の一つとしてあげられます。
ただ、一つの電子からの磁気の発生を抑えるには、逆向きに運動する別の電子が存在すれば、互いの電子が発生させる磁気相殺されることとなります。
このことが「電子対」の存在に相当すると考えることができます。

したがって、これまで述べてきた内容からまとめられることは、次の2点に集約できます。一つは、電子が局在する軌道が原子核から遠いほど、電子と原子核の間に働く引力が弱くなるため、不安定になりやすいということです。もう一つは、単一の電子は回転運動をしていて磁場の発生を伴い、不安定な状態になりやすいが、逆向きの回転運動をしている電子と対になることで、安定するであろうということです。

では、次に酸素について考えてみましょう。酸素は元素記号Oで、通常は分子の状態、つまりO2として存在しています。まず、Oの状態ので電子配置を図で見ると図1のようになります。

図1

 

 

 

 

 

 

図1を見て頂くと分かりますように、原子核から最も遠い軌道に存在する電子は「一つ」です。この状態ですと、この電子は、酸素原子Oの電子の中で最も不安定であることになります。繰り返しになりますが、その理由は、原子核から最も遠い位置にあり、かつ単独で存在しているからであることです。

しかし、実際に大気中に存在する分子O2の状態を想定してみると、図2のようになると考えられます。

 

図2

 

 

 

 

 

 

つまり酸素の場合、原子単体で存在するよりも、分子O2として存在する方が、電子の状態からは安定するということが考えられます。

ところで、お察しの良い方は、図1、あるいは図2で、『一番外側から2番目の軌道の電子は、単独じゃないか』と思われたと思います。まさにその通りなのですが、この軌道の電子が単体で存在することは、活性酸素の発生について考える上で極めて重要です。

分子O2の状態になった際には、一番外側の軌道の電子が2個、つまり電子対を形成するため、分子全体としては安定する傾向になるのですが、それでも外側から2番目(原子核の側から4番目)の軌道の電子も「安定するために」他の単独の電子と対になろうという、電子的な力は常に働いていると考えられます。

そこで、この外側から2番目の軌道の電子が、O2分子の構造を取る中で、何らかの形で電子を一つ取り込む流れを考えてみましょう。

まず、片方の酸素原子の外側から2番目の軌道にのみ外部から電子1つを取り込む場合を考えてみましょう。この場合が、スーパーオキサイドと呼ばれる、活性酸素です。このスーパーオキサイドは、どのような条件で出来るかというと、細胞内にあるミトコンドリアという器官が酸素を消費する際に、電子を一つ放出するため、それを取り込むとされています。また、他に白血球の一部(好中球やマクロファージ)でも、スーパーオキサイドは産生されています。このスーパーオキサイドは、生体にとって必要な免疫力(殺ウイルス作用)として働く一方で、肝臓でコレステロールが作られる時、呼吸、食事などの私たちの日常活動に伴っても産生されます。したがって、免疫力としては必要といえる反面、過剰に存在すると厄介そうだというイメージはお持ち頂けるかと思います。

次に、両方の酸素原子の外側から2番目の軌道に、外部から電子が1つずつ取り込まれる状態を考えてみましょう。物質としては、過酸化水素と言われる状態になります。小中学校の本などでも名前を見かけることがあると思いますが、過酸化水素となる状態は、軌道に存在する電子が2つ、つまり電子対を形成するため安定しているといえます。別の言い方をすると、一般に不対電子を有する物質が「ラジカル」と言われますが、この状態はラジカルではありません。ですが、ここで活性酸素として扱われる理由は、比較的電子を放出しやすい、つまり不対電子を生じやすいことが挙げられます。酸化力が強く、消毒剤の成分として知られますが、長時間、正常な生体が曝露されることは望ましくはありません。このため必要な存在時間を過ぎれば、通常はカタラーゼやペルオキシダーゼと言われる抗酸化酵素によって分解され、水と酸素になります。別の見方をすれば、一瞬だけ使われた後は、生体に必要な水と酸素になるわけですから、理にかなったエコシステムのようでもあります。

そして、2つの原子で構成されている酸素分子ですから、片方の原子核の外側から2番目の軌道にある電子が、もう片方の原子核の外側から2番目の軌道に移る可能性があります。この状態の物質は一重項酸素と呼ばれ、不対電子が存在しないにもかかわらず、非常に強力な酸化力を有します。この状態は、強い紫外線によって生じやすくなることが知られており、脂質やコラーゲンの酸化を促します。したがって、皮膚の荒れや老化に関与しているだけでなく、発ガンにも関与していることが知られています。アスタキサンチンと呼ばれる物質のほか、一部のビタミン類が、これを消去する作用があるとされていますが、その消去能は完全ではないとされています。
最後に考えられる形式は、酸素分子が、2つの酸素原子に分裂して、一番外側の軌道に、それぞれ1つずつ電子が入り込む状態です。この状態も、紫外線によって生じる他、過酸化水素と金属が反応した際にも生じることが知られています。活性酸素としては、最も反応性が高く、接触した物質をことごとく酸化させるとも言われています。もっとも、自然状態で存在できる時間が百万分の一秒前後とも言われているため、従来は問題にされていませんでした。ただ、オゾン層の菲薄化が心配され、実際に紫外線が強くなっている昨今では、一重項酸素と共に、紫外線によって誘導される発ガン経路と成り得る物質として考えておいて間違いはなさそうです。


そして、本文冒頭で述べた、フリーラジカルとは「自由電子」のことであり、これまで取り上げた活性酸素は分子としては不安定であるため、自由電子を、その電子軌道から発生させる可能性があります。機序の面から考えると、このような背景があるため、「活性酸素」が問題視されるようになっていると推察されます。

ですが、本文中でも触れたように、大気汚染やフロンガスの問題もあり、オゾン層が破壊され薄くなっているとも言われる昨今、それに伴って地上に降り注ぐ紫外線は増加していることは、平均気温の上昇や熱中症の発症増加を見ていても想像に難くはありません。では、この紫外線と気温上昇から、私たちは身体をどのように守れば良いのでしょうか?

少なくとも、皮膚については、単に美容という観点からではなく、紫外線に対する防御が必要であることは言うまでもありませんし、既に多くの方が実行されていると思います。では、紫外線防御の際の皮膚にとっての問題は何でしょうか?

 

紫外線防御の目的で、皮膚を様々なもので「覆う」ことが多くなっていると思います。覆う際には、コットンやポリエステル製のプロテクターや、強い日焼け止めなどを使われることもあろうかと思います。このような物で皮膚を覆うと、当然ながら、皮膚の外気との接触状況は悪くなります。前のコラムで述べさせて頂いた通り、皮膚には「酸素」は必要なものです。それも少し多い方が、多分良さそうです。だとすれば、紫外線防御と皮膚のケアを両立させるには、紫外線をブロックしつつ、「少し」酸素を供給できるポテンシャルがあるもので、皮膚を覆ってあげることが、解の一つになります。その点で、酸素を含有する化粧品類、日焼け止め類があれば、それは有用なものと考えられます。

 

参考文献・HPなど

佐中孜(1991)「活性酸素仮説」『日本透析医学会誌』24(3), 283-287頁。

理化学研究所仁科加速器研究センター http://www.nishina.riken.jp/research/nucleus.html

役に立つ薬の情報〜専門薬学

http://kusuri-jouhou.com/chemistry/orbit.html

 

著者:
大阪産業大学 横井豊彦教授

プロフィール