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歯とアンチエイジングの関係 

井出デンタルクリニック 院長 噛みしめ症候群研究会 会長 井出徹先生

美しい笑顔に不可欠なものは「歯」です。歯がお顔に与える印象には大きなものがあります。美しい歯を求めて高額な歯の治療や、矯正等をされる方が沢山います。歯を美しくしたいお気持ちは分かりますが、実はココに大きな落とし穴があることをご存知でしょうか。歯だけを治療しても美しい笑顔、お顔にならない場合があります。いいえ、歯を治療することにより、口元が弛みより老けた顔になったり、お顔が歪むことがあるのです。

アンチエイジングと言えばお肌やスタイル、髪が思い浮かぶと察しますが、歯もアンチエイジングに関係する大切な部位です。ここでは美しい口元を取り戻す方法について、歯とアンチエイジングの関係をお話させていただきます。歯科治療に関する正しい知識を持つと、これからの人生が変わってくると思います。この機会に改めて歯とお顔…強いては全身の係わりを知っていただき、いつまでも若々しく快活に過ごされるヒントになればと望んでいます。

間違った歯の治療から起こるお顔への影響は大きく分けて「弛み」と「歪み」がありますが、今回はなぜ「弛み」が起こるのかの理由と予防方法についてお話します。

 

噛みしめ症候群とは?

口元の老化に現れる「弛み」「歪み」の原因はずばり「噛みしめ症候群」にあります。聞き慣れない言葉かもしれませんので、最初に簡単に噛みしめ症候群について説明しましょう。

皆様が歯医者に行かれる理由として、まず挙げられるのが虫歯や歯茎の腫れ、歯周病等、歯原性の疾患、つまり歯や歯の周囲に問題がある場合です。それ以外に虫歯や歯周病等が原因でない歯のトラブルがあります。こちらを非歯原性と呼んでいます。非歯原性のトラブルの分かりやすい例を挙げますと・虫歯では無いのに歯が痛む・知覚過敏(熱いものや冷たいものが歯にしみる)・歯の詰め物やかぶせ物が何度も取れる・歯の噛み合わせが悪く、きちんと食べ物を咀嚼できない等、があります。このような非歯原性の症状で歯科を受診した場合、その原因が正しく追求されないまま、誤った治療で歯を削ったり抜いたりすると、結局、症状が解消されないばかりか、口元の老化につながることがあるのです。

ではこれら非歯原性の不快な症状はどうして起こるのでしょうか?長い間、はっきりとした理由は解明されていませんでした。実はこの原因こそが噛みしめ症候群だったのです。

人は何らかの衝撃に耐えたり、力を入れたりする時に歯を食いしばります。この時、歯には約200kgもの大きな負荷がかかっていると言われます。通常は歯をくいしばる状態が過ぎると、次第にリラックスして元の状態に戻ります。ところが、普段の生活でも無意識に歯を噛みしめてしまい、歯に負担をかけて続けている人が少なからずいることが分かってきました。確かに歯は硬いですが、短時間ならともかく長時間に渡り200kgもの力がかかり続けると、様々な弊害が生じます。歯の接触面が削れて摩擦や変形をしたり、時には歯の根元にヒビが入ったりします。虫歯で無くても歯が痛んだり、熱いものや冷たいものがしみるのは、このような原因で引き起こされると考えられます。

噛みしめの弊害は歯並びの劣化や舌炎、口内炎等も引き起こし、さらには口腔以外にも及ぶ可能性が高いです。人は本来、口を閉じていても上と下の歯は接していない状態にあるものです。歯と歯が少しでも接触していれば、それは噛みしめていることになります。この状態にある人は姿勢が悪く猫背で、頭の位置は前に出ていて、首や肩のコリ、側頭部の筋肉緊張型頭痛等、いずれかの症状を持っていることが多いです。そして美容面では、噛みしめにより口の周りの筋肉が縮んだ状態になっているため、弛みによる法令線等、口元の老化につながるのです。

 

なぜ噛みしめると口元が弛むのか?

美容関連サイトでは法令線や、お顔が弛む理由として、下顎の骨密度の低下、口の周りの筋力の衰え等が言われています。口の周りの筋肉を鍛えることを目指す美容器具のCMも見たことがありますが、私の見解ではそれが正しいかは疑問です。それよりも噛みしめ症候群の治療をするだけで弛みが大きく改善されます。

噛みしめ症候群が顔のたるみにつながる理由は、咀嚼筋・表情筋の過収縮(拘縮)です。口の周りの筋肉が常に縮んでいるため、上下の奥歯や前歯が接触している状態が続き、だんだんと摩擦してきます。その結果、咬合高径(上顎の歯と下顎の歯が最大で接触している状態での噛み合わせの高さ)が短くなり、口元が弛みます。例えば1mの支柱でピーンと張れるドーム型のテントを想像してください。もし支柱が90cmになってしまったらテントはピーンと張れますか? 必ず弛みます。テントの支柱を咬合高径とお考えください。すなわち弛みの改善には噛みしめを解消し、咬合高径を元に戻すことが必要なのです。

お顔の弛みは顔の輪郭にも現れてきます。お婆さんのイラストには、歳を強調するため、頬が顎にかけてブルドックのように垂れ下がっているものが多く見られますね。このようなひどい弛みも、噛みしめの治療により改善されます。理由は上述の口元や顎の弛みの場合と同じですが、弛んで四角になった輪郭が、噛みしめの改善で、耳から顎にかけてのラインがシャープになり、すっきりとした小顔になります。

 

噛みしめ症候群の診察方法

噛みしめ症候群についてお話しましたが、それでは自分が噛みしめ症候群なのか…?気付いていない方もおられると思います。ではどのような診察で明らかになるのか?当クリニックの診察方法を、順をおってお話しましょう。

1) 最初に行うのは患者さんの観察

チェアユニットに座ってもらう前に、歩き方や立ち姿、さらには表情や雰囲気等を見て、身体の歪みや、そこから来る噛みしめの程度、あるいは発症している症状を観察します。

2) 問診

患者さんが抱える問題のお話をお聞きしながら、お顔や頭部、顎部等の観察をして、左右のバランスの乱れを把握します。

3) 歯科治療のチェアユニットでの全身の歪みの確認と触診

チェアユニットに横たわった状態で、さらに全身の歪みを確認していきます。改めて関節等の歪み、頭部の傾き、背中のハリ、足の歪みを確認します。簡単な触診も合わせて行います。触診では頭部や首の関節の歪みまで細かく把握し、顎関節へと進みます。顎関節が正常に動いているかどうか…左右の回転がずれていないかどうか…動きにおかしなところは無いか…慎重に確認します。

4) 顔や首周りの筋肉の確認

さらに顎を動かしたり支えたりする筋肉、口の周囲の筋肉、顎の筋肉にも軽く触れていきます。同時に重い頭部を支えている胸鎖乳突筋や頸腕神経にも触れます。これらの触診では、どの筋肉が硬くなっているのかを把握します。

5) 口の中の診察と口腔レントゲン

口内の観察で歪みや噛みしめが、どのように現れているかを確認します。併せて虫歯や歯周病の有無、もし有ればどのステージかも把握します。最後に口腔レントゲンを撮ってお終いになります。

診察を終えると噛みしめの症状に応じて治療計画をたてます。

治療方法に関しては次回のコラムで詳しくお話することにしまして、今回は噛みしめから身を守るセルフケア方法をご紹介します。

 

噛みしめを予防する方法

噛みしめの症状の軽い方や、未だ噛みしめ症候群でない方は、予防、解消のために、自宅で手軽にできるトレーニングを習慣づけると良いでしょう。噛みしめが続きますと口周りの筋肉が緊張してきますが、口や舌のストレッチをすることで筋肉の緊張を和らげ、症状の軽減が図れます。

☆舌ぐるぐるストレッチ

口を閉じた状態で上下の歯をゆっくり舌で触りながら、ぐるぐる回転させます。※こちらは次回にお話します顔の歪みの解消に役立ちます。左回り3回、右回り3回を1セットで毎日3セット行います。

☆あいうべ体操

口呼吸を防いで自然に鼻呼吸をするとともに、噛みしめでこり固まった口周りの筋肉をほぐすことができます。

1) 口を大きく開けて「あー」

2) 口を大きく横に開いて「いー」

3) 口を大きく前に突き出して「うー」

4) 舌を突き出し、下に伸ばして「べー」

1から4をセットにして1日30セット行います。

さらに噛みしめによって引き起こされる肩コリや首コリ、頭痛に悩まされている人の症状緩和に役立つのが、首や方のストレッチです。

☆首のストレッチ

左右及び前方に首を軽く傾け、約20秒そのままの姿勢を維持した後、元のまっすぐな位置に戻します。この時、コキコキと音をたてないようにしてください。後ろ向きへの後屈は首の悪い人には逆効果になるのでしないようにしてください。

☆肩のストレッチ

ゆったりと呼吸をしながら、肩甲骨を大きく前から後ろへと10回程廻し、反対方向の後ろから前にも同じように10回程廻します。反動をつけないように行ってください。もしも痛む場合は医師に相談してください。

噛みしめ症候群はストレスと大きく関係する

噛みしめ症候群が起こる背景には、ストレスも大きく影響しています。仕事や家庭でのストレスが大きくなると、知らず知らずのうちに歯を強く噛みしめていることが多いです。現代社会でストレス無しに生きることは不可能に近いですが、日頃からストレスをためないように心がけるようにしてください。

ストレスの解消法は人様々です。・音楽や美術の鑑賞等、好きなことをする・入浴やアロマの香りでリラックスする等、色々とありますが、ストレス解消法として使われてる「筋弛緩法」を試してみるのも良いでしょう。これは、息を止めながら5~8秒間、全身の筋肉をグッと緊張させてから、次に息を吐きながら10秒以上、筋肉を思いっきり弛緩させていくものです。緊張させる時には全力でなく7~8割程度の力で行い、力を抜く時には一気に抜くことがポイントです。

今回は噛みしめ症候群とは何か、なぜ噛みしめると口元の老化「弛み」に繋がるか、そして予防法についてお話をしました。次回は、噛みしめ症候群が引き起こすもう一つの口元の老化、「口の歪み」についてお話をします。併せて噛みしめ症候群の実際の治療方法についてもご紹介させていただきます。

貴方は噛みしめていませんか?心当たりのある方は、ひどくなる前に、上述しました予防方法を是非、実施してください。きっと口元のアンチエイジングに役立つはずです!

 

井出 徹プロフィール

神奈川歯科大学 卒業 歯科医師  かみしめ症候群治療の第一人者。歯、口腔だけに係わらず、そこから全身に派生する、肩コリ、頭痛等の根本的解消として、噛みしめ症候群の研究、臨床を30年以上続け今日に至る。

 

地元の東京だけでなく他府県からも、治療に訪れる患者が多数ある。 治療の基本は患者とのコミュニケーション。医者の自己満足に終わらせず、常に患者が何を望んでいるかに応えることを目指している。

噛みしめ症候群の基本的な原因は、誕生からの生育にあると考え、子供たちのための新しい歯科治療としての食育・口腔育成の研究会を主宰し、全国の歯科医療関係者に対する教育・啓発活動に参加。独自に開発したマウスピース型の姿勢矯正装置(口腔育成装置)を用いた治療を全国の歯医者さんにも広げる活動も展開。

【著作】  歯医者が書いた歯医者に行かなくてすむ本 (すばる舎)

その歯の痛み、8割は削らなくても治ります! (内外出版社)