ワインガーデン・リブゴーシュ細谷志朗オーナー インタビュー
ワインガーデン・リブゴーシュ細谷志朗オーナー インタビュー
阪神芦屋駅の近くにある「ワインガーデン・リブゴーシュ」は、阪神間は言うまでも無く全国のワイン愛好者が一目置く、知る人ぞ知るお店です。リブゴーシュに来るお客様はワインを買うだけではなく、オーナーの細谷さんのワイン談義を楽しみに来店されます。細谷さんのお話をお聞きすると、誰しもワインの魅力に引き込まれます!今回は、細谷さんの独自の視点から見極めたワインの真実について語っていただきました。「本物のワインは美味しい」→「美味しいワインはヘルシー」→「ヘルシーなワインを飲むと美しくなる」→「美しくなると幸せになる!」という、幸福の連鎖は本物のワインを知ることから始まります。細谷さんのお話から「本物」の意味をわかっていただければと思います。
仲間との勉強会でワインの魅力発見
ワインとの出会いは酒販店仲間との勉強会でした。実家が酒販店を営んでおり、大学卒業後は日本酒のメーカーに勤めましたが、これらの経歴が私をワインの人生に導いたかと言うと、そうではありません。正直、実家を継ぐつもりはなかったです。また会社でも、ワインと関係する発酵・醸造の現場ではなく、コンピュータで出荷・管理するシステムエンジニアをしていました。諸事情があり日本酒メーカーを退社して実家の仕事をすることになりましたが、当初は、恥ずかしながらワインのワの字も知りませんでした。
そんな私が酒販店仲間に教えられてワインに興味を持ち、手探りで勉強を始めたのですが…これが驚くほどに奥が深く、ドンドンとのめり込んでいったのです。
すっかりワインに魅せられた私は、ついに1992年にワインアドバイザーの資格を取りました。今は名刺に日本ソムリエ協会認定ソムリエと書いていますが、当時、ソムリエはレストランで働く人の資格で、ワインアドバイザーはショップで働く人の資格…というように住み分けされていました。私はワインのショップを開きたかったのでワインアドバイザーを選択したのです。
ワインはお酒ではなく食
ワインガーデン・リブゴーシュを開いたのは1998年10月のことです。
店内にはワインを並べるだけでなく、試飲会や軽い調理、食事ができるスペースを設けました。ワインの本が並ぶ書棚も置きました。ワインガーデンとしましたのは、単なる販売店ではなく多くの方にワインを知っていただき、ワインの文化を発信するお店にしたかったからです。
当初は芦屋、阪神間という比較的お洒落な土地柄でもあり、日常の食卓用にワインを購入する方が多いと…取らぬ狸の皮算用をしていたのですが、その思惑は見事に外れました(笑)。欧米のようにワインを家庭で飲む日常が、未だ日本にはなかったのです。
私は「ワインはお酒ではなく食」と考えます。食事の脇役ではなく、主役に値する優れた素材なのです。ワインは時に外交でも大きな役割を果たします。各国の首脳会談の食事会に提供されるワインは国の意図を伝える大切なツールにもなります。フランスに勤務した外交官はワインの知識をフランスの政治関係者から試されると言いますが、欧米ではワインを知っていることは教養であり品格にもつながるのです。
これほどの食文化が、当時の日本では、ファッションの一部、お洒落の延長線上にありました。ひょっとして今でもそうかもしれませんが…残念なことです。もっと皆様にワインの本質を知ってもらう方法はないかと悩みました。そんな時に、カルチャースクールのワイン講師のお話をいただいたのです。リブゴーシュを開店した翌年のことでした。人様にお教えした経験はありませんでしたが、私は引き受けることにしました。結果的には、これが功を奏して、ワインの食文化を伝える道が開けました。
日本人はワインを感じる舌を持つ
お陰様でワイン講座は今も務めさせていただいています。教える立場になり一層、自分もワインについて学ぶようになりました。私の知識を多くの方と共有することは嬉しいことです。今後もライフワークとしてワインの講師は続けたいと望んでいます。講座では生徒さんと一緒に試飲をします。その際、私は常にワインを頭ではなく「心」で味わうようにと言います。批評家や雑誌、ネット上の雑音に惑わされず「自分の心に照らしあわせて本当に美味しいと思うか?」、この気持ちを大切にして欲しいのです。
ワインを味わうには心と「舌」が大切です。その舌を持つ最も優秀な民族は日本人だと信じています。なぜなら日本人は昔から旨味のあるものを日常的に食べてきたからです。旨味とはほのかな甘みのことです。出汁や煎茶等の旨味を知っている日本人は、ワインが持つ微妙な味の個性がわかる舌を必ず持っているはずです。その証拠に私の生徒さん達は、ちゃんとワインを味わっています。本職のソムリエ以上に、ワインの個性を的確に表現できる人もいます!
皆様はヨーロッパを旅行してワインを飲むと美味しかったのに、帰国して同じ土地のワインを飲むと、美味しくなかった…というお話をよく聞きませんか?それに対して、気候風土や一緒にした食事の影響…と答える人が多いですが、そんな答えに騙されてはいけません!その人の舌は間違っていません。日本で飲まれたワインが本当に美味しくなかったのです。なぜ日本で飲んだワインが美味しくないのか?理由は本物のワインではなかったからです。ワイン売り場にはたくさんのワインが氾濫していますが、実は本物のワインは極端に少ないことをご存知でしょうか?その事実を知るには、まず本物の定義を知っていただかねばなりません。
テロワールの意味と大量生産ワインの格差
ここで私の「本物のワイン」の定義を説明します。
ワイン造りとはワイン用のブドウ栽培に適したテロワール(フランス語で気候・風土・土壌という様々な要素を含んだ意味でブドウ畑をさします)にブドウを植え、できるだけ農薬を使用せずていねいに育て、収量を抑制して収穫し、醸造し、熟成し、ビン詰めして出来上がるものです。その当たり前のことを普通に実践することで畑のもつテロワールのニュアンスがワインに現れるのです。2005年に公開されたワインのドキュメンタリー映画『モンドヴィーノ』では、テロワールが生み出す味のことを「地味」と訳していました。つまり土地が醸し出す味のことです。ボルドーのワインは端的に言えば、暗く、冷たいです。反対にカリフォルニアのワインは明るくて、暖かいです。きっと皆様がイメージされている土地柄と合っていると思います。
テロワールの「地味」と、日本語の質素な、飾り気のないという意味の「地味」は、はからずとも似通っているように思います。1本百万円を越えるヴィンテージワインも、地味な作業の結晶です。
現在のワイン造りは大量生産・大量消費を目的に、ビジネス&作業効率が優先になっています。本来のテロワールのニュアンスとはかけ離れたワインがほとんどです。さらに一部の国ではワインは一大輸送産業にまでなっています。生産・流通・販売に大多数の人が携わるため、雇用創出の経済効果を産み出しているのです。テロワールの表現とはかけ離れた大量生産のワインは、大量消費文化の必要悪とも言えます。悲しいことに大半の日本人はそのワインを飲んでいるのです。
イタリアの至高の生産者と意見が一致!
次に地味なワイン造りとして、イタリアのワインについてお話をします。イタリアも上述しましたように大量生産のワインが主流です。しかし詳細に見ていきますと、各州でそれぞれの土着品種を用いて、ていねいなワイン造りをしている生産者が数えるほどではありますが、確実に存在しています。この事実には率直に驚かずにはおられません。その思いをぶつける素晴らしい機会が2007年に訪れました。イタリアのピエモンテ州バローロ村の至高の生産者のエリオ・アルターレ氏に会う機会に恵まれたのです。その時、私はアルターレ氏のワイン造りに対する真摯な姿勢にとても感銘を受けました。バローロの改革者と称される彼ですが、ワイン造り、すなわちていねいなブドウの栽培と真っ当な醸造技法こそが評価されるべきと思っています。
お会いした際、私は「今、イタリアワインは真の黄金時代を迎えつつあるのではないか?」と問いかけましたが、アルターレ氏は何をもって黄金時代と言うのかと返されました。そこで私は「テロワールの表現としてのワインを実践しているのは、小さな例外を除いてフランスでもなく、スペインでもなく、ましてやカリフォルニアでもなく、それはイタリアだ。」と答えたのです。私の答えにアルターレ氏は「正にそうだ!」という顔になり、ご自身のワイン感を熱く語りはじめました。最後にはシャンパーニュで乾杯をするという、私のワイン人生で忘れられない素晴らしい日になりました。
本物のワインは幸せをもたらします
イタリアの地味なワイン造りについてのお話で、皆様もおわかりになられたと思いますが、本物のワイン造りには頑強な精神と真摯な姿勢、そして何よりも自分が造るワインへの深い愛情が必要です。この当たり前でいて、とても大変な作業から出来上がるワインには生産者の志とともに、大地の恵みがたっぷりと含まれています。
例えば大量生産で流通している野菜と、有機栽培等、手間をかけ作られた旬の野菜では、味は言うまでもなく栄養分の含有量が違うのと同じことです。化粧品も同様で、原材料の質と製造工程の手間が効果の差につながると思います。本物の野菜を食べると健康になり、本物の化粧品を使うと美しくなるのは当然です。ただ、その本物が少ないのが現状です。リブゴーシュには世界中から取り寄せた本物のワインがあります。それを常に飲んでいる私はとても健康で、髪も同年代の男性に比べてふさふさしています(笑)。これも本物こそがもたらす恵みですね。ワインに感謝しています!
ご存知の方も多いと思いますが、赤ワインに含まれるポリフェノールは抗酸化力あり、健康・美容に良いと言われています。その効果も「本物のワイン」のみが授かっているものと知っておいていただきたいです。本物=体に良いものはDNAレベルで反応します。
本物のワインを楽しんでもらうために
ワイン講座ではありませんが、ここで皆様にも少しワインを選ぶ際のヒントや保存の仕方をお話しておきましょう。「ワインを売るにはチーズと一緒に売れ」と言います。なぜならチーズの旨味でワインの酸味が中和され、美味しく感じられるからです。反対に「ワインを買うにはリンゴをかじってから買え」と言うのですが、こちらは酸っぱいリンゴを食べた後でも、美味しく味わえるワインは旨味が強いことの証になるからです。
ワインの保存の温度も美味しさを左右する要因です。赤ワインは室温で、白ワインは冷やして…と言われていますが、厳密に言えば赤は16度~22か23度、白は8度~13度が美味しく飲める適温です。赤の室温の言われはイギリスのワイン教本から出ており、日本よりずっと寒いイギリスでの室温を指します。ですから赤ワインでも夏に飲む場合は少し冷やし、冬に飲む場合は反対に暖房した部屋でしばらく置く必要があります。美味しく飲むにはタイミングにも配慮が必要なのです。さらには保存の方法にも気をつけていただきたいですね。ワインは温度や湿度が適切に保たれるワインセラーで保存するのが一番です。冷蔵庫では野菜や肉に適した温度とワインに適する温度が違う場合があります。言葉は悪いですが、安価なワインを冷蔵庫で保存しても構いません。ただ高価なワインは、それ相当の扱いをして欲しいと言うことです。高価なブランドの衣服は保存にも気を使われるのと一緒です。最近ではコンパクトで比較的安価なご家庭用のワインセラーも登場してきました。本物のワインを正しく味わうために、ちょっぴり投資していただければと思います。
最後に日本のワインについてお話しさせてください。
広告等に踊らされ、海外のワインに目を向ける方が多いですが、日本にも質の高いワインがあります。特に私の地元、神戸ワインは成長が目覚ましいです。実は最近、神戸ワイナリーとのうれしい出会いがあり、ついに、私の思いを込めたリブゴーシュのオリジナルワインを2019年に発売できる予定です。神戸の「地味」がグッと生きたワインになるはずですので、ご期待ください!食べ物は地産地消が一番と言いますが、その意味でも私はこれからの神戸ワインに期待しています。
皆様も是非、本物のワインに開眼してください。健やかで美しい人生の扉が開くはずです。