妊娠と肌環境の関係、スキンケアについて
妊娠と肌環境の関係、スキンケアについて
■妊娠による肌の変化
女性にとって妊娠、出産は人生の大きな喜びの一つです。一方で妊娠時には体調は言うまでも無く、肌環境にも変化をもたらすことが多いです。今回は妊娠による肌の変化についてお話させていただきます。女性にとって肌のトラブルは気持ちにも影響を与えますので、妊婦の皆様が妊娠時の肌について知っていただき、ナーバスな時期をなるべくストレスを感じず安心して過ごしていただくヒントになればと望んでおります。
妊娠中の女性は母体側のホルモン変化、胎児胎盤からの影響により、生体にとって非常に特殊な環境となっています。それに伴いかなり高い頻度で皮膚の変化がみられます。変化は大きく3つに分けられます。
1 妊娠すると、程度の差はあるが誰にでも起こり得る変化
2 妊娠中にしかみられない特殊な皮膚疾患
3 妊娠によって起こりやすくなったり、悪くなったりしやすい皮膚疾患
これから上記3つの変化について項目ごとに説明していきます。
■ 妊娠すると程度の差はあるが誰にでも起こり得る変化
【色素沈着】
元々、メラニンの多い乳輪、乳頭、わき、陰部、肛門の周辺等のくすみが、より強くなります。この変化は妊婦の90%で起こってくるとも言われています。産後はくすみが薄れて良くなっていきますが、元の色までは戻りにくいようです。どうしても気になられる方には、産後に美白剤を塗る等の治療をすることになります。
【肝斑】
妊娠中期に、頬、口まわり、額などに左右対称にみられる褐色のシミです。全妊婦の半数以上にみられます。産後数ヶ月位で元に戻りますが、中には消えずに良くなったり悪くなったりを繰り返しながら慢性化する場合もあります。気になる方は皮膚科での治療がありますが、肝斑の治療は難しく長引くことが予想されます。しっかりと専門医の指導を受けて対応してください。
【多毛と脱毛】
妊娠初期には唇の上、顎や体の体毛が濃くなります。一方、頭髪は4~20週目の辺り、そして分娩後に脱毛しますが、あまり心配することはありません。また発毛して、ほぼ元の状態に戻ります。
【妊娠線】
腹部、太もも、また少ないですがお尻や乳房周囲に赤色の線がみられる変化で、お腹の大きくなる妊娠6~7ヶ月頃から出来てくることが多いです。皮膚が過度に伸ばされることで弾性線維がちぎれてしまうことにより起こります。
予防するには皮膚が伸びやすい状況にすることが大切です。具体的な対応としては保湿剤を塗ることになります。ヘパリン類似物質の入った保湿剤を朝晩たっぷりと塗ることをお勧めします。
【血管性変化】
妊娠中は充血しやすい状況なので、「手掌紅斑」と言って手のひらの主に膨らんでいる部分が赤くなったり、顔や首、腕などにクモのような放射状の毛細血管がみられたりします。出産に伴い自然消退することが多いですが、もしもクモ状血管腫が残れば、レーザーなどで治療することもできます。
【足のむくみ 静脈瘤】
体内の血液量がふえるので下肢のむくみや静脈瘤ができやすくなります。適度な運動や冷やさないことでむくみを予防しましょう。また足を上げて休むことでも改善がみられます。弾性ストッキングも効果的です。
■妊娠中にしかみられない特殊な病気
妊娠性痒疹、疱疹状膿痂疹等、全身にかゆみを伴い赤みが出る皮膚の病気があります。稀なのであまり心配する必要はありませんが、気になる症状があれば病院を受診して適切な治療を受けてください。
■妊娠によって起こりやすくなったり、悪くなりやすい皮膚疾患
【感染症】
妊娠中は体内の赤ちゃんを攻撃しないよう免疫が抑えられた状態になっています。そのため感染症が悪化しやすく、皮膚が膿んだり腫れたりすることがあります。口唇や陰部に痛みをともなって水疱が出来るヘルペスや、陰部にかゆみ、赤み、白いおりものが増えるカンジダが出やすかったりしますので、これらの症状があれば病院で相談しましょう。
【血管拡張性肉芽腫】
口の中や皮膚に、潰れて出血しやすい赤いできものができることがあります。出産後は自然に消えることも多いですが、出血を繰り返して困る場合、また時々悪性のものと見分けがつきにくいものもあるので病院への受診をお勧めします。しばらく様子をみるか、液体窒素やレーザーなどで治療します。
【皮膚そう痒症】
妊娠中、特に皮膚炎がないのにかゆみが出てくる状態です。保湿剤や場合によってステロイドの塗り薬、かゆみ止めの飲み薬などで様子をみていきます。ただし症状は出産まで続くことも多いです。産後は改善します。
【アトピー性皮膚炎】
妊娠によってはアトピー性皮膚炎が良くなったり悪くなったりする人がいます。完治したと思っていたアトピー性皮膚炎が、また出てくることもあります。妊娠中は薬の内容が変わることもあるので、皮膚科を受診される場合は妊婦である旨を伝えましょう。
妊娠中は使えない薬も多いので病院で受診される場合は、必ず妊娠中であることを伝えてください。妊娠中にお薬を使うことを心配される方も多いですが、最近は妊娠中のお薬の安全性評価も増えてきています。悪化してから治療すると余計に大変な場合もありますので、辛い症状は病院に相談するようにしましょう。
また、イボ(ウィルス性ゆうぜい)やヘルペス、水虫などは子供に感染する病気です。出産までに治療するようにしましょう。イボの治療は通常液体窒素を用いて表面を凍結させる方法が標準的ですので胎児への影響は心配いりません。水虫も塗り薬で治療する分では問題はありません。
手荒れ、手湿疹は出産後、手洗いや家事が増える影響で悪くなる可能性が高いです。また母乳育児をすると乳頭周囲がただれたりすることがあります。ですから妊娠中は保湿を心掛け、ひどい場合は皮膚科で安全なお薬を処方してもらい治療してください。出来るだけよい状態で出産を迎えるようにしましょう。
■妊娠中のスキンケア
妊娠中はホルモン変化、血流変化、ストレス、睡眠不足などにより肌は過敏な状態になっています。ですので頻繁に化粧品を変えることはお勧めできません。また今まで使っていたものでも、肌の調子が悪くなることがあります。良くなっていた症状がまたぶり返すこともあり、隠れていたアトピー性皮膚炎が出てくることもあります。このような場合、化粧品は低刺激のものに変え、改善しなければ皮膚科を受診してください。
化粧品が肌から吸収される量は少量です。ネット上では様々な情報があるかと思いますが過度に心配されなくても良いと思います。
また毛染めをされている方は、肌が過敏になっている時ですのでかぶれやすくなるリスクがあります。一部、染毛剤に関しては妊娠中は避けるべきと言われたりもしていますが、医学的根拠はありません。あくまでもご自身の判断になりますが、心配な方は控えたほうがよいでしょう。
☆注意が必要な化粧品成分には次のものがあります。
1) トレチノイン
シミの治療として使用されることがあります。
トレチノインを内服した場合の動物実験で、大量に使用した場合に奇形がでた報告があるため、注意が必要な成分として挙げられています。市販薬でも混合されている場合がありますが、低濃度(2%以下)であれば問題ありません。ただ高濃度のもの、美容皮膚科でもらったものなどは使用を控えましょう。
2)ハイドロキノン
こちらもシミの治療として使用されます。
市販で売られている低濃度のものは大丈夫ですが、高濃度になると安全性が確立されていませんので、使用は控えましょう。
上記の2種の成分はいずれもシミの治療として使用されるものです。妊娠中は先程も述べたように色素沈着を起こしやすかったり、肝斑がでたりと、シミが気になる時期です。これらの症状は出産後に良くなる場合がほとんどですので、あまり神経質にならないことです。総体的に肌の状態が過敏になっていますので、刺激の強い化粧品は控えるようにしましょう。
ステロイドに関しては過敏になられる方もいらっしゃいますが、塗り薬としては使用量、方法さえ間違えなければ、まず安心して使用できます。
■妊娠中の肌のケアに良い食べ物
葉酸
葉酸は胎児の奇形を予防するために必要ともいわれています。肌のターンオーバーを促進させる効果もあります。また赤血球の生成を助ける働きがあるので血色の良い肌色になる、口内炎の予防にも効果的です。
含まれている食品:納豆 枝豆 モロヘイヤ ほうれん草 ブロッコリー
鉄分
妊娠中は貧血になりやすいので予防が必要です。妊婦は血行が悪くなり肌がくすんで見えることがあるので鉄分を摂取すると改善させる効果があります。
含まれている食品:レバー(過剰摂取しない程度に) 豆 貝 干しエビ ひじき
※レバーは鉄分を含みますが、同時にビタミンAも多く含むため、週に1,2度、食べる程度には問題ありませんが、継続的に摂取すると、胎児に影響が出る場合があると報告されています。特に胎児の成長分化が激しい妊娠初期には過剰摂取を控えてください。
同じビタミンAでも植物性のものは水溶性ですので、普通の食事で食べる程度では問題ありません。
ビタミンC
抗酸化効果がありますのでシミそばかすを防ぎます。
含まれている食品:柿やイチゴ等のフルーツ類 ジャガイモ ブロッコリー 小松菜
ビタミンB
皮膚、粘膜をつよくしたりニキビを抑制したりします。
含まれている食品:うなぎ 豚肉 納豆 きな粉 乳製品
ビタミンE
抗酸化作用があり血行改善になります。
含まれている食品:アーモンド等のナッツ類 キウイフルーツ かぼちゃ うなぎ
サプリメントの服用について
栄養はあくまでも食事で摂ることが基本です。ただ妊娠中は体調の変化でちゃんと食事が摂れないこともあるので、上手にサプリメントを使いながら過ごされて良いと思います。また葉酸などは普通の食事内容ではどうしても不足しがちになるので積極的に取り入れてもいいでしょう。ただ、ビタミンAの過剰摂取は胎児奇形の原因になるので注意が必要です。サプリメントの成分に疑問があったり心配に感じたりする場合は、お医者さんに相談して適切なアドバイスを受けてください。
~皮膚科医師 白木 美保~
西奈良メディカルクリニック メディカルフィットネス登美ヶ丘勤務
http://www.nishinara-med.com/staff.html
皮膚の事は何でもお聞きください。
皮膚がより健康な状態で年齢を重ねていけるようにお手伝い致します。
美容に関するご相談も、お気軽にどうぞ。
同じ子育て中の身ですので、お子様の皮膚トラブルやスキンケアなど細かな事でもご相談して下さい。
■経歴
関西医科大学卒
関西医科大学皮膚科入局
関西医科大学滝井病院 皮膚科
関西医科大学枚方病院 皮膚科
H26~現職(医療法人悠明会)
■担当
・皮膚科の診療
・日本皮膚科学会皮膚科専門医
・日本美容皮膚科学会
・日本小児皮膚科学会